令和元年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 国連加盟国であるA国とB国は,共に国連海洋法条約の当事国であり,国際司法裁判所規程の選 択条項受諾宣言を留保なしに行っていた。 A国は,自国の排他的経済水域(以下「EEZ」という。)におけるタラの漁獲量の減少に悩ん でいた。タラはA国のEEZと公海をまたいで生息する魚種である。A国は自国のEEZにおける タラの漁獲可能量につきA国漁民に対する規制を年々強め,A国漁民の間には不満が募っていた。 他方,B国漁民はA国のEEZに隣接する公海でタラの漁獲に従事し,B国の漁獲量は年々増加し ていた。そのため,A国の漁民は,A国政府に対し,タラの持続可能な漁業のために,B国政府を 相手に公海における漁業規制を行うための交渉に入るように求めた。これを受けてA国政府は,B 国政府との交渉に入り,公海におけるタラの総漁獲可能量及び割当量を設定するため漁業規制を行 うことを主張した。しかし,B国政府は,タラの資源量は規制を必要とする水準にはなく総漁獲可 能量及び割当量の設定は必要でないとして,漁業規制を行うこと自体に反対し,引き続き公海での タラ漁を継続することを主張した。 これに対して,A国政府やA国漁民のみならず,海洋生物資源の保存活動に取り組むA国の環境 保護団体Xも激しく反発した。そして,ついに公海で操業しているB国漁船をA国漁船が取り囲み, 両国の漁民間が衝突する事態が生じた。この事態を受けて,A国は,自国のEEZ及びこれに隣接 する公海の一部においてタラ漁を禁止する禁漁区を一方的に設定した。加えてA国は,タラ資源保 存実施法を制定し,同禁漁区でタラを漁獲する外国漁船に対しては,これを拿捕し,当該漁船の船 長や乗組員に対して罰金を科することができることを定めた。B国は,A国の公海における禁漁区 の設定とタラ資源保存実施法の制定は国連海洋法条約に違反するとして,これを非難した。 そうした中,A国が設定した公海上の同禁漁区で,B国の漁船Yが従前どおりタラ漁を開始した。 これに反発したA国の環境保護団体Xは,C国を旗国とする船舶を用い,公海上の同禁漁区でタラ 漁を行っている漁船Yの航行を妨害するとともに,漁網を切断するなどの行為を行った。B国政府 は,環境保護団体Xの行為を海賊行為として取り締まるようにA国政府に要求したが,A国政府は 環境保護団体Xの行為は海賊行為に当たらないとして,何らの取締りも行わなかった。それどころ か,A国の海上警察機関が漁船Yをタラ資源保存実施法に違反したとして拿捕し,その船長と乗組 員を逮捕した。 大きな外交問題に発展したこの事件が国際司法裁判所(以下「ICJ」という。)に提訴される ことを恐れたA国は,一旦,国際司法裁判所規程の選択条項受諾宣言を撤回した。その後,A国は, 「タラに関するA国が制定した国内法及びこうした国内法の執行から生じた,またはそれらに関す る紛争」をICJの強制管轄権から除外する旨の留保を付した新たな選択条項受諾宣言を行った。 これに対し,B国は,当初,外交交渉による問題の解決を目指したが,船長らの解放の見込みが ないと判断して,船長と乗組員の即時釈放を求める仮保全措置とA国の行為の国際法違反の認定と 損害賠償を求めて,本事件をICJに提訴した。これに対して,A国は,自らの留保を理由にIC Jの管轄権を争う先決的抗弁を提起した。 以上の事実を基に,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.A国は,公海上に禁漁区を設定した上,タラ資源保存実施法に基づき,B国漁船Yを拿捕し, その船長と乗組員を逮捕したが,これらのA国の行為は国際法上許容されるかについて論じな さい。 2.環境保護団体Xの行為を海賊行為として取り締まるようにとのB国の主張に対して,A国の 立場からは,国際法上,どのような反論が可能であるかについて論じなさい。 3.A国が選択条項受諾宣言に付した留保による先決的抗弁が認められるかについて論じなさい。