令和元年 司法試験 論文式試験 経済法 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:50) A,B,C,D,E,F,G,H,I,Jの10社(以下「10社」という。)は,各地の農業 協同組合(以下「農協」という。)が競争入札等の方法により発注する穀物の乾燥・調製・貯蔵施 設及び精米施設(以下「穀物貯蔵等施設」という。)の建設を請け負う事業者であり,他に当該建 設を請け負う事業者は存在しない。A,B,C,D,E,F,Gの7社(以下「7社」ともい う。)は,一定の技術的水準を満たした農業施設を建設できる能力を有し,かねてより,穀物貯蔵 等施設工事の指名競争入札においては,7社のうち複数の者が指名されることが多かった。10社 は穀物貯蔵等施設以外の施設・設備の建設工事も行っており,特にH,I,Jの3社(以下「3 社」ともいう。)は,穀物貯蔵等施設を建設することもできるが,主たる事業分野は農業施設以外 の建設工事であり,穀物貯蔵等施設の建設能力は相対的に低かった。 穀物貯蔵等施設工事に当たっては,農業振興のための補助金が平成28年度から3年間の予定で 国や都道府県から農協に交付されることとなった(以下,当該補助金が交付される穀物貯蔵等施設 工事を「特定農業施設工事」という。)。当該補助金の交付を受けるための条件として,農協は3者 以上の事業者を指名して行う競争入札を実施することが必要であり,補助金事業として3年間に相 当数の特定農業施設工事の指名競争入札が実施される見込みとなった。 これを受けて,A,B,C,D,E,F,Gの7社は,平成27年12月から数次の会合を経て, 平成28年1月30日の会合で,特定農業施設工事の入札について,均等な受注機会の確保と受注 価格の低落防止を図るため, (1) 指名を受けた事業者(以下「指名業者」という。)は,Aに当該特定農業施設工事を受注する 意思の有無を連絡する (2) 受注を希望する者が1社の場合は,その者が受注予定者となり,受注を希望する者が複数の場 合は,会合を開いた上,7社において受注予定者を決定する (3) 受注予定者以外の指名業者が入札すべき価格は,受注予定者が定めてAに連絡する (4) Aは受注予定者以外の指名業者に,受注予定者が定めた価格で入札するよう連絡する などにより,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることに合意した(以下「本 件合意」という。)。 H,I,Jの3社は,平成27年12月,Aから,特定農業施設工事の入札について競合事業者 が集まって話合いを行うので出席するよう持ちかけられたが,3社の担当者は言葉を濁して出席す ることを見合わせた。3社は,それぞれ,工事の規模や技術力の点から自社も受注できると考えた 特定農業施設工事の入札に指名された場合には,積極的に落札を目指して低価格で入札を行おうと 考えていた。一方,3社は,それぞれ,特定農業施設工事以外の分野の入札において競合事業者か ら協力を得たいと考えていたため,自社が受注を希望しない特定農業施設工事について,競合事業 者の間で受注予定者が決定されている場合には,要請があれば,指定された価格で入札するなどの 方法により当該受注予定者の落札に協力するつもりであった。 Aは,3社が特定農業施設工事の入札に指名されることは少ないと考えたが,念のため,特定農 業施設工事の発注が行われるたび3社に指名の有無と受注の意思を確認し,協力が得られる場合に は,3社に入札価格を連絡することとし,その方針を平成28年1月30日の上記会合でA以外の 6社に伝えた。 平成28年6月に行われた甲農協発注の特定農業施設工事の指名競争入札(以下「第1回入札」 という。)では,A,B,C,Dが指名され,A,B,Cが受注を希望したため開かれた会合で, Aが受注予定者に決定し,入札では,会合での調整の結果どおり,Aが落札した。 平成28年11月に行われた乙農協発注の特定農業施設工事の指名競争入札(以下「第2回入 札」という。)では,B,C,D,Eが指名され,B,C,Dが受注を希望したため開かれた会合 で,Dが受注予定者に決定し,入札では,会合での調整の結果どおり,Dが落札した。 平成29年6月に行われた丙農協発注の特定農業施設工事の指名競争入札(以下「第3回入札」 という。)では,E,G,Jが指名された。Jは,第1回入札及び第2回入札に際してAからの問 合せに対し指名を受けていないことを回答していたところ,第3回入札に際しても,Aからの問合 せに対し,指名を受けたこと及び落札を目指していないことを回答した。そして,EとGが受注を 希望したため開かれた会合で,Gが受注予定者に決定し,入札では,会合での調整の結果どおり, Gが落札した。Jは,Aから指示されたとおりの価格で入札して,Gの落札に協力した。 平成29年11月に行われた丁農協発注の特定農業施設工事の指名競争入札(以下「第4回入 札」という。)では,D,F,Iが指名を受けたが,受注希望者はFのみであったため,会合は開 かれず,DとIがAから指示されたとおりの価格で入札した結果,Fが落札した。 平成30年7月30日に指名競争入札(以下「第5回入札」という。)が行われた戊農協発注の 特定農業施設工事は,第4回入札の対象であった丁農協発注の特定農業施設工事と工事の規模や必 要とされる技術力がほぼ同じであった。この第5回入札では,B,C,Jが指名されたが,それま での入札で受注予定者になることができなかったBとCは,これを必ず落札したいと考えた。第5 回入札の受注予定者を決定するために平成30年6月15日に開かれた会合には7社が出席し,長 時間の話合いの結果,B以外の6社は,Cを受注予定者とすることに決したところ,その場でBの 担当者は,「今度は本気で勝負する。値下げ競争になっても必ず仕事を取る。」,「今後,一切,受注 予定者を話し合って決めるつもりはない。」,「二度とこの会合には戻らない。」と発言し,Cの担当 者と激しい口論になった。その後,Aは,Jに連絡し,Jから第5回入札の指名を受けたこと及び 落札を目指していないことを確認すると,Cの落札に協力するよう要請し,Jが承諾したことから, Jが入札すべき価格を伝達した。第5回入札において,JはCに協力するためにAから指示された とおりの価格で入札し,一方,BはJに協力を依頼しないで入札を行った結果,Bが落札した。そ のため,7社のうちBを除く6社は,平成30年8月1日,本件合意のメンバーからBを除名する ことを決定した。 その後,Eは,このような入札談合はもはや維持できないと考え,平成30年8月10日,私的 独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)第7条の2第10項 に基づいて公正取引委員会に事実の報告等を行い,それを受けて,公正取引委員会は,平成30年 9月20日,関係各社に対する一斉の立入検査を実施した。以後,7社は本件合意に基づく会合を 開いていない。 各回の入札における指名業者の入札価格及び農協が設定した予定価格は,以下の表のとおりであ る。 入札 入札価格 予定価格 第1回 A:2.91億円 B:2.94億円 C:2.97億円 D:3.06億円 3億円 第2回 B:2.97億円 C:3.03億円 D:2.94億円 E:3.06億円 3億円 第3回 E:1.94億円 G:1.90億円 J:2.02億円 ― 2億円 第4回 D:0.98億円 F:0.96億円 I:1.03億円 ― 1億円 第5回 B:0.72億円 C:0.75億円 J:0.90億円 ― 1億円 〔設 問〕 上記のB及びJの行為について,独占禁止法に違反するか,違反する場合には,違反する行為 がなくなった時期も含めて検討しなさい。