令和元年 司法試験 論文式試験 民事系科目 第1問
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〔第1問〕(配点:100〔〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕の配点は,35:30:35〕) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕,〔設問2〕及び〔設問3〕に答えなさい。 I 【事実】 1.平成29年5月10日,注文者Aと請負人Bは,A所有の土地に,Bが鉄骨鉄筋コンクリー ト造9階建ての建物を代金3億6000万円で建築する旨の請負契約(以下「本件契約」とい う。)を締結した。本件契約では,代金について,契約日に10%,着工日に30%,棟上げ 日に40%,引渡日に20%を支払うこととされ,引渡日は,平成30年6月11日とされた。 2.Aは,本件契約に従い,Bに対し,請負代金債務の履行として,平成29年5月10日(契 約日)に3600万円,同月17日(着工日)に1億800万円,同年8月9日(棟上げ日) に1億4400万円を支払った。 3.Bは,必要な材料を全て自ら調達し,平成30年6月1日,本件契約で定められた仕様どお りに,建物(以下「甲建物」という。)を完成させた。 4.平成30年6月7日,この地域で発生した震度5弱の地震により,甲建物の一部が損傷して 落下し,甲建物に面する道路を歩行していたCを負傷させた(以下「本件事故」という。)。こ れにより,Cは,治療費の支出を余儀なくされた。 5.甲建物の一部損傷をもたらした原因は,甲建物に用いられていた建築資材の欠陥にあった。 この資材は,定評があり,多くの新築建物に用いられていたが,本件事故を契機とした調査を 通じて,その製造業者において検査漏れがあったこと,そのため,必要な強度を有しない欠陥 品が出荷され,甲建物にはたまたまそのようなものが用いられていたことが,判明した。 〔設問1〕 【事実】1から5までを前提として,本件事故が発生した時点における甲建物の所有者は誰か, また,仮にその所有者が注文者Aであるとした場合,Cは,Aに対し,所有者としての責任を追及 して,本件事故による損害の賠償を請求することができるか,理由を付して解答しなさい。 II 【事実】 6.Dが所有する建物(以下「乙建物」という。)につき,D名義の所有権の保存の登記がされ ていた。 7.平成24年10月1日,DとE県との間で,DがEに対し乙建物を期間20年,賃料月額2 5万円で賃貸する契約(以下「本件賃貸借契約」という。)が締結された。同日,Eは同月分 の賃料を支払い,Dは乙建物をEに引き渡した。同年11月分以降の賃料については,本件賃 貸借契約において,Eは前月末日までにDが指定する銀行口座に振り込んで支払うこととされ ていた。Eは,これに従い,同年11月分以降の賃料を,前月末日までにDが指定した銀行口 座に振り込んで支払っていた。 8.平成28年8月3日,Dは,Eから事前に了解を得て,Fとの間で,FのDに対する貸金3 600万円の回収を目的として,本件賃貸借契約に係る同年9月分から平成40年(※令和1 0年に相当)8月分までの賃料債権をFに譲渡する旨の契約(以下「本件譲渡契約」という。) を締結した。 平成28年8月3日,Dは,Eに対し,本件譲渡契約を締結したこと,及び,同年9月分以 降の賃料をF名義の銀行口座に振り込んで支払うべきことを内容証明郵便で通知した。この通 知は,翌日Eに到達した。 9.Eは,平成28年9月分以降の賃料を,【事実】8のDからの通知に従い,F名義の銀行口 座に振り込んで支払った。 10.平成29年12月1日,Dは,Gから,Gに対する弁済期が経過した債務6000万円(以 下「本件債務」という。)の弁済を求められた。 Dは,古くからの友人であるHに相談し,D,G及びHの間で協議が行われた。Dは,Gに, 財産と呼べるものは乙建物と本件賃貸借契約に基づきEから取得する賃料だけであるが,その 賃料に関してFとの間で本件譲渡契約をした旨述べた。これに対し,Gは,乙建物を売りに出 せば,買主は長期の安定した賃料収入を見込めることもあり相当な価格で容易に売れるのでは ないかと述べ,その売却によって得られる代金から本件債務を弁済するよう求めた。アHは, 本件譲渡契約にかかわらず,乙建物の所有権を取得し登記を備えることによって,Eから本件 賃貸借契約に係るそれ以後の賃料の支払を受けることができると考え,自ら乙建物を購入する こととし,D及びGとの間で,後日正式に契約をする前提で以下の合意をした。 1 Dは,Hに,乙建物を,その収益性を勘案した価格である6000万円で売却する。 2 Hは,Dに対して1の売買代金の支払をするのではなく,DのGに対する本件債務の 弁済を引き受けることによって,1の売買代金債務を消滅させるものとする。 3 Gは,Dの本件債務を免除する。 4 Hは,2で引き受ける債務の弁済として,Gに対し,1の売買契約の締結後直ちに3 600万円を支払い,また,以後10年間,毎月20万円を支払う。 11.平成30年2月14日,【事実】10の1から4までの合意に従って,DとHとの間で乙建物 の売買契約(以下「本件売買契約」という。)が,GとHとの間で本件債務に係る免責的債務 引受契約(以下「本件債務引受契約」という。)が,それぞれ締結された。また,Gが,Dに 対し,本件債務引受契約を締結した旨を伝えた。さらに,Hは,Gに対し,3600万円を支 払った。 同月20日,乙建物について,本件売買契約を原因とするDからHへの所有権の移転の登記 がされた。 12.平成30年2月21日,Dは,Eに対し,乙建物をHに売却したこと,及び,同年3月分以 降の賃料をH名義の銀行口座に振り込んで支払うべきことを通知した。 13.平成30年2月22日,Eは,Fに対し,【事実】12の通知が来たことを知らせた。イFは, 本件売買契約にかかわらず,本件賃貸借契約に係る賃料の支払を受けることができると考え, Eに対し,同年3月分以降の賃料を引き続きF名義の銀行口座に振り込んで支払うことを求め た。 〔設問2〕 【事実】6から13までを前提として,【事実】10の下線部アを根拠付けるためにHがどのような 主張をすることが考えられるか,【事実】13の下線部イを根拠付けるためにFがどのような主張を することが考えられるかを述べた上で,下線部アと下線部イのいずれが正当であるかを検討しなさ い。 〔設問3〕 【事実】6から13までを前提として,仮に【事実】13の下線部イが正当であるとした場合,Hは 本件債務引受契約の無効を主張することができるか,理由を付して解答しなさい。