平成30年 司法試験 論文式試験 経済法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) A社は,各種の合成樹脂を原料としたパイプやホースなどの管を製造販売する会社であり,資本 金は200億円,年間売上げは2000億円,従業員の人数は2500人である。A社の主力商品 の中には,X製品とY製品があり,両製品は合成樹脂を原料とした管製品であるが,X製品は専ら 家庭用に用いられる一方で,Y製品は主として工場配管用に用いられる。また,原料価格の差を反 映して,X製品はY製品の約2倍の価格となっている。なお,A社は,過去に,私的独占の禁止及 び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反で排除措置命令や課徴金納付 命令等の行政処分を受けたことはない。 ところで,平成30年4月1日午前,公正取引委員会の審査官がA社を訪問し,X製品とY製品 の価格カルテルの疑いで立入検査を開始した。 その上で,審査官は,両製品の担当営業部長甲について,任意の事情聴取を行うために公正取引 委員会への出頭を求めたが,甲は出張中でこれに直ちには応じられなかった。 同日午後になって,A社から委任を受けた弁護士乙は,甲の携帯電話に電話をかけて,事実関係 を確認したところ,甲から,次のような説明を受けた。 1 甲がA社を代表して参加した平成29年1月中旬の業界団体の営業部長会合で,X製品とY製 品の市況が話題になった。同会合には,A社ないしF社の6社の各営業部長が出席していた。な お,我が国における市場占有率は,X製品とY製品のいずれについても,ここ10年ほど,A社 20パーセント,B社25パーセント,C社10パーセント,D社15パーセント,E社15パ ーセント,F社10パーセントとなっているほか,輸入製品が5パーセントとなっている。 2 同会合において,B社部長が,「最近,X製品の主要な原材料Zの価格が値上がり傾向にあり, このままでは各社とも採算が悪化してしまう。どうにか,原材料の値上がり分だけでも,平成2 9年4月1日以降のX製品の価格に転嫁できるよう努力したい。また,Y製品の価格も,通常X 製品の価格と連動して決まるので,同時に値上げをしたい。皆さんの考えを聞きたい。」と発言 した。 3 C社部長は,こうした話題について競争事業者と話をすることは社内で禁じられているとして, 退席した。甲は,「当社では,製品価格について他社と合意をすることは禁止されているため, 皆さんとの間での合意には参加できません。しかし,会議に参加することまでは禁止されていま せん。」と述べて同会合にとどまった。甲は,X製品の原材料Zの価格上昇にどう対応するのか 日頃から悩んでいたこともあり,他社がどのようにコスト上昇分を製品価格に転嫁しようとして いるのか知りたかったため,各社の議論を注意深く聞いていた。また,甲が他社から退席を求め られることもなかった。 4 D社部長は,X製品の値上げについては原材料Zの値上がりを理由に顧客の理解を得られるだ ろうが,Y製品の値上げについては難しいだろうとの意見を述べた。E社部長とF社部長は,X 製品とY製品のいずれについても,是非とも積極的に値上げを目指したいと発言した。 5 同会合の最後に,B社部長から,「大体皆さんの意見は分かりました。どうにか,原材料の値 上がり分だけでも,うまく製品価格に転嫁できるように頑張りましょう。」という発言があり, 散会となった。この1回を除くと,競争事業者間でX製品とY製品の値上げの議論をしたことは ない。 6 甲は,X製品については他社も基本的には値上げの意向であると確信し,Y製品についても少 なくともB社,E社及びF社の3社は値上げの意向であると判断して,これに同調すべく両製品 の値上げの準備を開始した。そして,同会合の約1か月後の平成29年2月中旬に,B社がX・ Y両製品について10パーセントの値上げを公表したのに続いて,同年3月1日,A社はX製品 について10パーセント,Y製品について5パーセントの値上げを顧客に通告した。ほぼ同時期 に,C社もX・Y両製品について5パーセント,D社はX製品のみ10パーセント,E社及びF 社はX・Y両製品について7パーセントの値上げを打ち出し,顧客との間での値上げ交渉に入っ た。なお,各社とも値上げ予定日を同年4月1日としていた。 7 甲は,この間の経緯をまとめた資料を自宅のパソコンに保管している。 A社におけるX製品とY製品の各売上げについては,平成29年1月中旬の業界団体の営業部長 会合での話合いの翌日から平成30年3月31日までの間の総額は,X製品が100億円でY製品 が80億円,値上げ予定日である平成29年4月1日から平成30年3月31日までの間の総額は, X製品が90億円でY製品が70億円であった。ただし,顧客側の値上げへの抵抗も強く,平成2 9年4月1日の時点で,X製品については平均で5パーセントの値上げしか実現せず,Y製品につ いてはほとんど値上げが実現しなかった。 〔設 問〕 (1) 上記の甲の説明内容が全て真実であることを前提として,A社ないしF社の6社の行為につ いて,独占禁止法に違反するといえるか論点を挙げて検討しなさい(同法第8条について言及 する必要はない。)。 (2) 仮にA社が独占禁止法に違反したと考えられる場合,想定されるA社の課徴金の金額を算出 しなさい(立入検査の日の前日を課徴金算定の基礎となる実行期間の終期と仮定する。)。また, 弁護士乙として,A社に対して,同社の責任を軽減するために採るべき手段及びそれに必要な 行為に関して助言すべき内容を検討しなさい(助言日は平成30年4月1日とする。)。