平成30年 司法試験 論文式試験 民事系科目 第3問
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〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,40:30:30]) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 なお,損害賠償債務の履行遅滞による損害金(いわゆる遅延損害金)の請求については問題にし ないものとする。 また,本問に現れる場所のうち,甲市は甲地方裁判所(以下「甲地裁」という。)の管轄区域内 に,乙市は乙地方裁判所(以下「乙地裁」という。)の管轄区域内にそれぞれ所在している。解答 に当たっては,甲地裁及び乙地裁のいずれもが本問に現れる訴えの土地管轄及び事物管轄を有する ことを前提にすること。 【事 例】 A,B及びCはいずれも自然人であり,AとCは甲市内に住所を有し,Bは個人タクシー事業 者で,乙市内に住所兼営業所を有する。 Aは,乙市内でBが運転するタクシーに乗客として乗車していたところ,BのタクシーとCが 運転する自動車とが衝突する事故(以下「本件事故」という。)が起こり,これによって負傷し た。 Aは,本件事故後直ちに乙市内で応急措置を受けた後,D法人が甲市内に開設する病院に入院 して治療を受け,退院後もこの病院に通院して治療を受けた(以下,この病院を「D病院」とい い,D法人を「D」という。)。 以上の事実については,A,B及びCの相互間に争いがない。 Aの負傷について症状が固定した後,Aは,弁護士L1を代理人として,B及びCと損害賠償 について話合いをした。その中で,Bは「BとCの過失によって本件事故が発生した」との認識 を示したが,Cは「本件事故は専らBの過失によって発生したものであり,Cには過失がないの でCは損害賠償責任を負わない」と主張した。また,損害の額について,Aは,400万円を下 回らないと主張したが,BとCはいずれも,「AがDに支払ったと主張する治療費が負傷との関 係で高額過ぎるし,本件事故によってAが主張するような後遺症が生ずるはずがないので,損害 額はせいぜい150万円である」と主張したため,話合いがつかない状況であった。 そこで,Bは,訴訟で解決するしかないと考え,弁護士L2に債務不存在確認訴訟を委任する ことにした。これを受けたL2は,Bの訴訟代理人として,Bを原告,Aを被告として次のよう な内容の訴状を乙地裁に提出して訴えを提起した(以下「Bの訴え」という。)。 ①請求の趣旨:「本件事故に係るBのAに対する不法行為に基づく損害賠償債務は150万円 を超えないことを確認する」との判決を求める。 ②請求の原因の要旨:本件事故はBとCによるAに対する共同不法行為に当たるが,本件事故 によって発生したAの損害の金額は,高く見積もっても150万円である。ところが,Aは 損害額が400万円を下回らないと主張して譲歩しようとしない。よって,Bは,Aとの間 で,本件事故に係る不法行為に基づく損害賠償債務が150万円を超えないことの確認を求 める。 Aは,この訴状の副本等の送達を受けたため,L1に,Bの訴えに対応するとともに,Aを原 告として,B及びCに対して400万円の損害賠償を請求する訴えを提起することを委任した。 以下は,Aの委任を受けた弁護士L1と司法修習生Pとの間の会話である。 L1:BはBの過失を争っていませんが,CはCの過失を争っています。Aの損害額については, 入院及び通院中の治療費その他の費用,これらの期間の逸失利益,後遺症による逸失利益及び 慰謝料等が考えられます。治療費等の領収証,後遺症についての医師の診断書,Aの年収の資 料等もありますので,損害額については,400万円を主張することができると考えています。 P:そうすると,Bの主張する150万円の損害というのは低すぎますので,AからBに対して 400万円の支払を求めていくことになりそうですし,Cは自ら賠償をする気が全くないよう ですから,Cに対してもBと連帯して400万円を支払うよう求めていくのがよいですね。A が起こす訴えの訴訟物は,不法行為に基づく損害賠償請求権でよいでしょうか。 L1:訴訟物に関しては,AB間では債務不履行に基づく損害賠償請求権も想定できますが,B とCの共同不法行為を前提に,不法行為に基づく損害賠償請求権のみを主張することにしまし ょう。訴えを起こす裁判所としては,甲地裁と乙地裁が考えられます。また,AはCをも被告 として訴えを提起することになりますので,BとCを共同被告として訴えを提起することを検 討すべきです。 P:Bの訴えが既に提起されて訴状がAに送達されたこととの関係で,Aが提起する訴えの適法 性については検討を要するのではないでしょうか。 L1:そのとおりです。では,まず,AがBを被告として乙地裁に訴えを提起する場合に,訴え が適法といえるか,また,その場合に,Aは,CをもBと共同被告とすることができるか。い ずれも適法であるとの方向で立論を工夫してください。これらを「課題⑴」とします。 P:分かりました。 L1:しかし,AとCは甲市に住んでいて私の事務所も甲市にあるので,費用や時間の点から, 甲地裁に訴えを提起して訴訟追行ができるかも考えておきたいところです。AがBとCを共同 被告とする訴えを甲地裁に提起する場合に,この訴えが適法といえるか。これも,この訴えが 適法であるという方向で,説得力のある立論をしてください。これを「課題⑵」とします。 P:分かりました。 L1:これらの課題に答えるためには,まず,Bの訴えの訴訟物を明示して,それが,Aが起こ そうとしている訴えの適法性にどのように関わってくるのかを考える必要があります。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして,L1から与えられた課題⑴及び課題⑵に答えなさい。 【事 例(続き)】 弁護士L1は,Aと相談した上,原告Aの訴訟代理人として,B及びCを被告とし,本件事故 がBとCの共同不法行為であると主張して,不法行為に基づく損害賠償請求権に基づき400万 円の支払を求める訴え(以下「Aの訴え」という。)を甲地裁に提起し,その訴状の副本等はB 及びCに送達された。 その後に乙地裁で開かれたBの訴えについての第1回口頭弁論期日において,Bの訴訟代理人 L2は,Bの訴えを取り下げる旨を陳述し,Aの訴訟代理人として同期日に出頭したL1は,こ の訴え取下げに同意する旨陳述した。 そこで,その後,本件事故については,甲地裁において,Aの訴えのみが審理の対象となった。 Aの訴えについての審理の過程で,Bは,「Bの過失によって本件事故が発生したことを争わ ないが,Cにも過失がある。また,Aに生じた損害額は150万円以下である」と主張し,Cは 「本件事故は専らBの過失によって生じたものであって,Cに過失はない。仮にCが責任を負う としても,Aに生じた損害額は150万円以下である」と主張した。 Aの訴訟代理人L1は,B及びCとの間で争いのある損害額を証明するため,D病院での治療 費等の領収証,Aの後遺症に関するD病院の医師作成の診断書及びD病院での診療記録の写しを 書証として提出した。 以下は,Bの訴訟代理人L2と司法修習生Qとの間の会話である。 L2:私の経験からすると,Aの負傷の程度に照らして,400万円という損害額は不当に多額 であると感じられるのです。Aが,既にあった症状の治療を本件事故の機会に乗じて受けてい るのではないか,また,診断書にある後遺症も本件事故とは無関係な症状ではないかとの疑い があります。 Q:不法行為と因果関係がある損害の額の証明責任はAにあるのですから,Bとしてはそれを真 偽不明に追い込めば足りるのではないですか。 L2:本件の場合は,Aは,主張に見合った領収証や診断書を提出しています。また,一定の診 療記録もD病院で謄写して提出しており,それらによって証明が十分であるとの姿勢を見せて います。しかし,私は,まだ,D病院でのAの診療記録の全部が提出されたわけではないと考 えています。Bとしては,D病院での診療記録全体に基づいて,本件事故と治療及び後遺症と の因果関係を争いたいところです。Dに診療記録の提出を求めていく方法はどのようなものが 考えられますか。 Q:文書送付嘱託の申立てをすることが考えられます。 L2:実務的にはそのとおりです。そのほかには,どのような方法が考えられますか。 Q:文書提出命令の申立ても一つの方法だと考えられます。 L2:そうですね。では,文書提出命令の申立てについても考えてみましょう。私がBの訴訟代 理人としてAの診療記録について所持者をDとして文書提出命令を申し立てるとして,予想さ れるDからの反論を念頭に置きながら,Dに文書提出義務があるとする説得力のある立論をし てください。これを課題とします。文書提出義務の存否に関する民事訴訟法の条文に即して具 体的に考えてください。診療記録には患者Aに関する情報が記載されていますので,そのこと をどう考えるべきか,よく検討する必要があります。 〔設問2〕 あなたが司法修習生Qであるとして,L2から与えられた課題に答えなさい。 【事 例(続き)】 Aの訴えについて審理した結果,裁判所は,本件事故はBの過失によって発生したもので,C の過失を認めることはできず,また,Aに発生した損害額は250万円であると判断し,「Bは, Aに対し,250万円を支払え。AのBに対するその余の請求及びAのCに対する請求を棄却す る。」という主文の判決をした(訴訟費用の負担及び仮執行宣言に関する部分は問題としない。)。 Bは,AのBに対する請求が250万円の限度で認容されたことには納得ができたので,これ に対して不服を申し立てるつもりはなかったが,AのCに対する請求が全部棄却されたことには 不満を抱いた。しかし,Aは,Bに対してもCに対しても控訴を提起するつもりはないとのこと であった。 そこで,L2は,Bの訴訟代理人として,BがAを補助するために参加する旨の申出をすると ともに,Aを控訴人,Cを被控訴人として,「AのCに対する請求を棄却する判決を取り消し, AのCに対する請求のうち250万円が認容されるべきである」と主張して,控訴期間内に控訴 を提起した。 控訴裁判所である丙高等裁判所(以下「丙高裁」という。)は,L2の補助参加申出書と控訴 状を含む訴訟記録について甲地裁から送付を受け,Cに控訴状の副本等を送達した。 Cは,Bによる補助参加に異議を述べ,この控訴は不適法であると主張した。Cは,控訴を不 適法であるとする理由として,(ア)第一審で補助参加をしていなかったBがAのために控訴をす ることはできないこと,及び,(イ)Bにはこの訴訟への補助参加が許されないので控訴をするこ ともできないことという二つの理由を挙げ,そのいずれにしても控訴は不適法であると主張して いる。 〔設問3〕 Cの主張(ア)及び(イ)のそれぞれの当否を検討し,丙高裁の受訴裁判所がこの控訴の適法性につ いてどのように判断すべきかを論じなさい。