平成29年 司法試験 論文式試験 労働法 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:50) 次の事例を読んで,後記の設問に答えなさい。 【事 例】 Y社は,A県において,乗合バス(路線バス,高速バス等)事業及び貸切りバス事業を営む株式 会社であるが,地域住民の路線バスの利用者数が漸減し,路線バス事業の営業収支が悪化の一途を たどっていた。そこで,Y社は,隣県のB県で同じく路線バス事業を営む株式会社であるZ社と経 営統合の可能性について協議を重ね,Z社がY社の路線バス事業部門を引き継ぐことで合意に至っ たので,Y社の路線バス事業を吸収分割によりZ社に承継させること(以下「本件分割」という。) とした。Y社には従業員200名のうち150名の従業員で組織されるC労働組合(以下「C組合」 という。)が存在しているが,Z社(従業員120名)には,労働組合は存在しない。また,Y社と Z社では定年年齢60歳の定年制が採用されている。分割対象である路線バス事業に従事していた バス運転手は,X1~X30の30名(以下「X1ら」という。)であり,X1ら全員が承継対象と された。 Y社は,本件分割に際して,商法等改正法附則第5条(注)に定める手続として,X1ら全員を 対象とした説明会を実施し,Z社の概要,X1らが承継対象であること,承継後も現在と同様の路 線バスの運転業務に従事してもらうが,A県だけでなくB県の路線バスを担当してもらうこともあ り得ること,給与,勤務時間などの労働条件は,当面,現在と同様で,変更はないことなどを説明 した。この説明会では,X1らから,Z社の今後の経営見通しに不安はないのか,B県の路線バス を担当することになると,従業員によっては通勤時間等の面で不利益な面が出てくるのではないか, 転居が必要になる場合には,どのように対処するのかなどの質問が出されたが,Y社は,他社であ るZ社の経営状況は説明すべきことではない,個々の従業員について具体的に問題が生じるのであ れば,個別事情に応じて各個人に説明し,理解,協力を得ることにしたいなどと答えた。 なお,C組合から,本件説明会の前に,本件分割の背景や理由などの関連事情について説明を行 い,協議する機会を設けるよう申入れがあったが,Y社は承継対象であるX1らに対して説明会を 開催する予定であると回答して,この協議申入れに応じなかった。 以上の経緯で,本件分割が実行され,X1らの労働契約はZ社に承継された。しかし,本件分割 による労働契約承継後のX1らの労働条件とZ社の従業員の労働条件には相違があった。具体的に は,両社とも職能資格制度に基づく給与制度を採用しており,諸手当の支給対象,手当額にはさほ どの違いはなかったが,職能資格に対応する給与(基本給)の額が異なっていた。両社で同一の勤 続年数を有する従業員を比較すれば,Y社の基本給はZ社のそれの1割程度低く,Z社の水準が近 隣県の同業他社の平均的な水準であった。他方,退職金については,両社とも,「在職月数×一定の 係数×退職時の基本給」により算定されていたが,Y社の計算係数はZ社のそれより高く,在職2 0年以上の場合にはY社の退職金額はZ社のそれを大きく上回るものであった。 本件分割から半年後,Z社は,社内体制整備の一環として,X1らの賃金,退職金をZ社の水準 に合わせ,諸手当については,より簡明なY社の制度に合わせるため,給与規程,退職金規程の改 訂を行うこととした。そこで,Z社は,全従業員を対象に,給与規程,退職金規程の改訂について, 説明会を2回開催することにした。第1回目の説明会において,Z社は,従前からのZ社従業員と X1らとの労働条件が異なるのは賃金管理上支障があるので,給与,諸手当,退職金に係る賃金制 度を改訂して統一を図る必要があること,改訂の内容は,従前からのZ社従業員については,諸手 当の制度を簡明にするだけなので大きな変更はないが,X1らについては,基本給を引上げ,退職 金の計算係数を引き下げることになること,X1らについては,改訂後5年程度で基本給の増加分 が退職金の減少分に見合う見通しであることなどを説明した。これに対して,X1らからは,Y社 における給与水準は維持されるはずではなかったのか,定年ないし退職の時期によっては退職金の 減少分が基本給の増加分で補えないのではないかとの疑問が出されたが,Z社は,希望があれば各 人の今後の給与額の見込みと定年時の退職金額の見込みを個別に示すことにするので,まずは,こ の改訂を了解していただきたいと訴えた。Z社は,この説明会終了時に,給与規程,退職金規程の 改訂に納得してもらえる人は,次回の説明会でこの改訂に同意する旨のZ社が用意する書面(以下 「本件同意書」という。)に署名,押印し,提出してもらいたいと伝えた。 そして,1週間後の第2回目の説明会において,140名の従業員が本件同意書に署名,押印し, Z社に提出したが,X1らのうち,勤続が20年を超えていた12名中10名は,退職金が大幅に 減額になる退職金規程の改訂には同意できないとして,本件同意書を提出しなかった。Z社は,こ の2回の説明会終了後,労働基準法の定めに従い,従業員の過半数代表者を選出して,給与規程と 退職金規程の改訂について意見聴取を行い,この改訂に賛成する旨の意見書を添付して,所轄労働 基準監督署に就業規則の変更を届け出た。併せて,改訂就業規則を各課室に備え置いた。 〔設 問〕 1.X1は,本件分割についてのY社の説明会での対応に納得できず,不満があったので,Y社か らZ社への労働契約承継の効力を争いたいと考えている。検討すべき法律上の論点を挙げて,あ なたの意見を述べなさい。ただし,会社分割に係る会社法上の論点には触れなくてよい。 2.X2は,本件同意書を提出した後,要介護状態にある母親の容態が悪化して退職することにし たが,支給される退職金額はY社に在籍していれば支給されたはずの退職金額を大きく下回るの で,支給金額との差額を請求したいと考えている。検討すべき法律上の論点を挙げて,あなたの 意見を述べなさい。 (注)商法等の一部を改正する法律(平成12年法律第90号)(抄) 附 則 (労働契約の取扱いに関する措置) 第5条 会社法(平成17年法律第86号)の規程に基づく会社分割に伴う労働契約の承継等に関し ては,会社分割をする会社は,会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(平成12年法律第 103号)第2条第1項の規定による通知をすべき日までに,労働者と協議をするものとする。 2 (略)