平成29年 司法試験 論文式試験 国際関係法(私法系) 第2問
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〔第2問〕(配点:50) 日本及び甲国は,いずれも国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(平成15年条 約第6号)(以下「本件条約」という。関連条文後掲。)の締約国である。他方,乙国は,本件条約 及びその他の国際航空運送に関する条約のいずれの締約国にもなっていない。 農業用機械を製造販売する日本法人X会社は,甲国法人A農場と交わした機械(以下「本件貨物」 という。)の売買契約を履行するため,甲国法人Y航空会社(主たる営業所:甲国)の日本に所在す る営業所(従たる営業所)において,Xを荷送人,Aを荷受人とし,日本から甲国まで本件貨物を 運送する旨の航空運送契約(以下「本件運送契約」という。)を締結した。本件運送契約には,X及 びYがそれぞれ従たる営業所の一つを有する乙国が両社にとって中立の地位にあるという了解の下 に,乙国裁判所を専属管轄裁判所とする旨の条項及び本件運送契約の準拠法を乙国法とする旨の条 項が含まれていた。また,Xは本件運送契約を締結するに当たり,甲国法人Z保険会社との間で, 運送中の本件貨物の毀損を保険事故とする保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結し,保 険契約の準拠法を甲国法とする旨合意した。 Xは,送付時に,本件貨物が毀損していないことをYの従業員立会いの下に確認した上で,その 旨をAに知らせていた。本件貨物が甲国に到着した翌日,Aは,本件貨物の毀損(機械の機能を失 うほどの損害)を発見し,Xにその旨を通知した。 〔設問1〕XがYに対し,本件貨物の毀損を原因とする本件条約第18条第1項に基づく損害賠償 請求権を訴訟物とする訴え(以下「本件訴え」という。)を日本の裁判所に提起したことを前提と して,以下の小問に答えなさい。 〔小問1〕本件訴えにつき,Yは,乙国裁判所を専属管轄裁判所とする旨の条項の存在を指摘し, 日本の裁判所には国際裁判管轄権がない旨主張した。Yの主張は認められるか。本件条約の適 用のプロセスを踏まえて論じなさい。 〔小問2〕本件訴えの提起の1か月前に,Yが,Xを被告として甲国の裁判所に本件貨物の毀損 を原因とする本件条約第18条第1項に基づく債務の不存在確認を求める訴えを提起してい た。この場合,日本の裁判所は,本件訴えをどのように処理すべきか。 〔設問2〕Zは,保険契約に基づいてXに保険金を支払った。Zは,法律上の代位により,本件貨 物の毀損を原因とする本件条約第18条第1項に基づく損害賠償請求権をXから取得したと主張 して,Yに対し,損害賠償金の支払を求める訴えを日本の裁判所に提起した。Zの主張の当否を 判断する場合の準拠法について論じなさい。 (参照条文)国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約(平成15年条約第6号)(抜粋) 第1条 適用範囲 1 この条約は,航空機により有償で行う旅客,手荷物又は貨物のすべての国際運送について適用 し,航空運送企業が航空機により無償で行う国際運送についても同様に適用する。 2 この条約の適用上,「国際運送」とは,当事者間の約定により,運送の中断又は積替えがあるか ないかを問わず,出発地及び到達地が,二の締約国の領域内にある運送又は一の締約国の領域内 にあり,かつ,予定寄航地が他の国(この条約の締約国であるかないかを問わない。)の領域内に ある運送をいう。一の締約国の領域内の二地点間の運送であって他の国の領域内に予定寄航地が ないものは,この条約の適用上,国際運送とは認めない。 3,4 (略) 第18条 貨物の損害 1 運送人は,貨物の破壊,滅失又はき損の場合における損害については,その損害の原因となっ た事故が航空運送中に生じたものであることのみを条件として,責任を負う。 2~4 (略) 第26条 契約上の規定の無効 契約上の規定であって,運送人の責任を免除し又はこの条約に規定する責任の限度より低い額の 責任の限度を定めるものは,無効とする。ただし,当該契約は,このような規定の無効によって無 効となるものではなく,引き続き,この条約の適用を受ける。 第29条 請求の根拠 旅客,手荷物及び貨物の運送については,損害賠償についての訴えは,その訴えがこの条約に基 づくものであるか,また,契約,不法行為その他の事由を理由とするものであるかを問わず,この 条約に定める条件及び責任の限度に従うことによってのみ,かつ,訴えを提起する権利を有する者 がいずれであるか及びこれらの者それぞれがいかなる権利を有するかという問題に影響を及ぼすこ となく,提起することができる。このような訴えにおいては,懲罰的損害賠償その他の非補償的損 害賠償を求めることはできない。 第33条 管轄 1 損害賠償についての訴えは,原告の選択により,いずれか一の締約国の領域において,運送人 の住所地,運送人の主たる営業所若しくはその契約を締結した営業所の所在地の裁判所又は到達 地の裁判所のいずれかに提起しなければならない。 2~4 (略) 第49条 必要的な適用 運送契約中の条項又は損害の発生前に行った特別な合意は,当事者が,これらにより適用する法 令を決定し又は裁判管轄に関する規則を変更し,もってこの条約に定める規則に反することを意図 する場合には,いずれも無効とする。