平成29年 司法試験 論文式試験 民事系科目 第3問
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〔第3問〕(配点:100[〔設問1〕から〔設問3〕までの配点の割合は,15:55:30]) 次の文章を読んで,後記の〔設問1〕から〔設問3〕までに答えなさい。 【事 例】 Xは,Yに対し,平成28年3月10日,Yから譲り受けた浮世絵版画(以下「本件絵画」と いう。)の引渡しを求める訴えを管轄地方裁判所に提起した。この訴訟において,訴訟代理人は 選任されていない。 Xは,訴状において,次のように主張した。 「Xは,かねてよりYの事業の支援をしていたが,平成27年9月1日,Yから,これまでの 支援の御礼として,本件絵画の贈与を受けた。Yから受け取った念書には,YがXに本件絵画 を譲る旨や同年10月1日にY宅で本件絵画を引き渡す旨が記載されている。その後,Xが約 束どおりY宅に出向いて本件絵画の引渡しを求めたのに,Yはこれを拒み,一切の話合いに応 じないので,贈与契約に基づく本件絵画の引渡しを求めるため,本件訴えを提起した。贈与の 事実の証拠として,この念書を提出する。」 これに対し,Yは,答弁書において,次のように主張した。 「Yは,絵画について造詣が深い友人Aから,Xが本件絵画の購入を望んでいると聞いて,X に本件絵画を売却したのであり,贈与などしていない。Xに交付した念書には代金額の記載が ないが,それは,代金額を本件絵画の時価相当額とする趣旨であり,その額は300万円であ る。ところが,平成27年10月,Xは,本件絵画の取引はXに対する贈与であり,代金を支 払うつもりはないと言ってきたので,Yは,本件絵画の引渡しを拒んだ。これらの事実を立証 するため,本件絵画の取引経緯に詳しいAを証人として申請する。」 第1回口頭弁論期日が平成28年5月10日に開かれ,Xは訴状に記載した事項を,Yは答弁 書に記載した事項をそれぞれ陳述した。さらに,Xは,贈与の主張に加え,仮にこの取引が売買 であり,本件絵画の時価相当額が代金額であるとしても,その額は200万円にすぎないと主張 した。 第2回口頭弁論期日では,Aの証人尋問と,X及びYの当事者尋問が行われた。Aは,本件絵 画の取引はその時価相当額を代金額とする売買契約であること,その額は200万円であること, この売買契約はAがYの代理人としてXと締結したものであることなどを述べた。期日において は,本件絵画の取引が贈与又は売買のいずれであるか,また,売買であるとしてその代金額は幾 らかに焦点が絞られ,AがYの代理人であったか否かについては,両当事者とも問題にしなかっ た。 以下は,期日終了後の裁判官J1と司法修習生Pとの間の会話である。 J1:今日の証拠調べの結果をどのように評価しますか。率直な意見を聴かせてください。 P:取引経緯に関するAの証言は具体的で信用できるため,Yの代理人AとXとの間で,本件 絵画の時価相当額を代金額とする売買契約が成立し,その額は200万円であると考えられ ます。Xはこの200万円を支払っていませんから,売買を理由に,「Yは,Xから200 万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決をすべきで はないでしょうか。 J1:私の心証も同じですが,あなたの言うような判決を直ちにすることができるのでしょう か。まず,Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの心証が得られたとして,その事 実を本件訴訟の判決の基礎とすることができるのかについて,考えてみてください。 P:両当事者がその点を問題にしなかったのだからいいように思いましたが,考えてみます。 〔設問1〕 あなたが司法修習生Pであるとして,J1から与えられた課題に答えなさい。 【事 例(続き)】 以下は,J1とPとの間の会話の続きである。 J1:次に,あなたの言うような判決はXの請求に対する裁判所の応答として適当なのか,す なわち,本件の訴訟物は何かを考える必要もありますね。 そして,Xは,第1回口頭弁論期日に,「仮にこの取引が売買であり,本件絵画の時価相 当額が代金額であるとしても,その額は200万円にすぎない。」と主張していますが,こ れには,どのような法的な意味合いがありますか。 P:Xが単に譲歩をしただけで,あまり法的に意味のある主張には見えませんが。 J1:本当にそうでしょうか。 他方,Yは,「本件絵画をXに時価相当額で売却し,その額は300万円である。」と主張 していますが,その法的な意味合いも問題になりますね。 P:はい。Xの主張する請求原因事実との関係で,Yのこの主張がどのように位置付けられる か,整理したいと思います。 J1:本件は,訴訟代理人が選任されていないこともあり,紛争解決のために,両当事者の曖 昧な主張を法的に明確にする必要がありそうです。 訴訟物の捉え方については様々な議論がありますが,あなたの捉える本件の訴訟物は何に なるかを示した上で,各当事者から少なくともどのような申立てや主張がされれば,「Yは, Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判 決をすることができるか,考えてみてください。その際,先ほどお願いしたYの主張の位 置付けの整理も行ってください。これを課題①とします。 ところで,本件絵画の時価相当額については,当事者からより適切な証拠が提出されれば, 別の金額と評価される可能性もあると思います。課題①で必要となる各当事者の申立てや主 張がされたという前提の下で,仮に,本件絵画の時価相当額が220万円と評価される場合 あるいは180万円と評価される場合には,それぞれどのような判決をすることになるのか についても,考えてみてください。これを課題②とします。 なお,課題①及び②の検討においては,設問1で検討した点に触れる必要はありません。 また,あなたの言うとおり,本件絵画の時価相当額を代金額とする売買契約が成立したも のとして,考えてください。 〔設問2〕 ⑴ あなたが司法修習生Pであるとして,J1から与えられた課題①に答えなさい。 ⑵ あなたが司法修習生Pであるとして,J1から与えられた課題②に答えなさい。 【事 例(続き)】 その後,上記の訴訟(以下「前訴」という。)においては,「Yは,Xから200万円の支払を 受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。」との判決がされ,この判決は確定した。 もっとも,Xは,自らの事業の経営状態が悪化したこともあり,代金を支払ってまで本件絵画 を手に入れることに熱意をなくしてしまった。逆に,Yは,Xに対し,本件絵画を持参するので 代金200万円を支払ってほしいと連絡したが,Xから拒絶された。そこで,Yは,弁護士に委 任して,Xに対し,平成29年3月1日,本件絵画の売買代金200万円の支払を求める訴え(以 下「後訴」という。)を管轄地方裁判所に提起した。 Xから委任を受けた弁護士は,前訴で問題となった本件絵画の取引について事情を調べたとこ ろ,X及びYの取引仲間であるBから,本件絵画の取引は贈与である旨の証言を得られそうだと の感触を得た。また,同弁護士が本件絵画の写真数点を古物商に見せたところ,高くても150 万円相当であるとのことであった。そこで,同弁護士は,改めて事実関係を争うべきであると考 え,答弁書において,XY間には本件絵画の贈与契約が成立したのであって,Xは売買代金の支 払義務を負わないし,仮に贈与契約でなく売買契約が成立したと判断されたとしても,その代金 額は150万円であり,Xはその限度でしか支払義務を負わないと主張した。 第1回口頭弁論期日には,双方の訴訟代理人が出頭し,訴状及び答弁書に記載した事項をそれ ぞれ陳述した。Yの訴訟代理人は,答弁書におけるXの主張は前訴判決の既判力に触れて許され ず,前訴判決に沿って,直ちに請求認容判決がされるべきであると主張した。これに対し,Xの 訴訟代理人は,前訴判決において,XY間には代金200万円の本件絵画の売買契約が成立した と判断されたかもしれないが,Xの代金支払義務に関する判断には既判力は生じないと主張した。 以下は,後訴を担当した裁判官J2と司法修習生Qとの間の会話である。 J2:本件は,Yの訴訟代理人の主張するように,前訴判決に沿って,直ちに請求認容判決を すべきなのでしょうか。 Q:今まで考えたことがないのですが,既判力の範囲に関する民事訴訟法の規定に遡って考え ないといけないように思います。 J2:そうですね。それを出発点としつつ,前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられ ていることの趣旨にも触れながら,後訴において,XY間の本件絵画の売買契約の成否及び その代金額に関して改めて審理・判断をすることができるかどうか,考えてみてください。 〔設問3〕 あなたが司法修習生Qであるとして,J2から与えられた課題に答えなさい。