平成28年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第2問
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〔第2問〕(配点:50) A国に所在するB国大使館(以下「B国大使館」という。)に勤務するB国の外交官Xが,A国 内の首都近郊の道路で自動車を運転中,制限速度を大幅に超過していたためカーブを曲がり切れず に歩道に突っ込み,歩道を歩いていたA国籍の小学生十数名を死傷させるという重大な交通事故を 起こし,事故現場からそのまま逃走した。 A国の警察当局は,Xが自宅には戻らずB国大使館の館内にとどまっていることが判明したため, A国外務省を通じて,A国に駐在するB国大使Yに対し,Xの身柄の引渡しと本件事故の捜査への 協力を要求した。これに対し,Y大使は,上記の事故はXが引き起こしたものであることは認めな がら,「Xは外交官の身分を有する者であり,外交関係に関するウィーン条約によれば,我が国は Xの身柄をA国政府に引き渡す義務を負わない」と述べ,警察当局の要求を拒否した。これを受け, 上記交通事故で死亡した小学生の遺族数名が抗議のためB国大使館を訪れたところ,B国大使館側 は面会を拒否して上記遺族を門前で追い返した。これがマスコミによって大きく報じられると,A 国国内ではB国政府に対する反発が強まった。 その後,B国大使館がXをB国に帰国させたところ,これを知ったA国国民の間では,B国政府 に対する反感が一層激化し,B国大使館の周辺で,B国政府の本件対応に抗議する大規模なデモが 連日行われるようになった。A国の警察当局は,多数の警察官を動員してB国大使館の警備に当た り,抗議集団がB国大使館に侵入することを阻止した。しかし,抗議集団により,B国大使館には 多くの石や卵が投げ付けられて,建物の窓が割れ,また,その敷地の外壁にはスプレーでB国を非 難するスローガンが大きく落書きされた。さらに,抗議集団の一部は,B国大使館の正門前の路上 で,持参したB国国旗を燃やして気勢を上げたが,警備に当たるA国の警察官はこれを阻止しよう としなかった。 B国大使館に対する大規模デモは数週間継続し,その間B国大使館では,館員が自由に出入りす ることができず,大使館としての業務を行うことが困難な状態が続いた。 一方,Xは,A国からB国に帰国した直後にB国外務省を退職した。その約1年後,Xが私用で 海外渡航中にA国領域内を通過したところ,Xは,A国領域内で,A国警察当局によって上記死傷 事故を発生させた容疑で身柄を拘束され,A国検察当局によって同容疑でA国の裁判所に訴追され た。 なお,A国とB国は,いずれも国際連合加盟国であり,外交関係に関するウィーン条約の当事国 である。 〔設 問〕 1.「Xは外交官の身分を有する者であり,外交関係に関するウィーン条約によれば,我が国は Xの身柄をA国政府に引き渡す義務を負わない」というY大使の見解に対して,A国政府とし て国際法上どのような主張が可能であるかについて,論じなさい。 2.B国大使館に対する抗議活動の結果生じた損害に関連して,B国政府はA国政府に対して国 際法上どのような請求を行うことが可能であるかについて,A国政府側からの予想され得る反 論も踏まえながら,論じなさい。 3.A国の当局によってXが身柄を拘束され,A国裁判所に訴追されたことは,国際法上どのよ うに評価できるか。Xが引き起こした交通事故が,1休暇中に私的な旅行のため自動車を運転 中の事故であった場合,2緊急の公務のため自宅からB国大使館に駆けつける途中の事故で あった場合のそれぞれについて論じなさい。 論文式試験問題集[国際関係法(私法系)]