平成28年 司法試験 論文式試験 経済法 第2問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第2問〕(配点:50) 【前 提】 A社,B社及びC社は,それぞれ健康維持のための消耗品である甲(以下「甲」という。)の製造 業者である。日本には,これら3社のほか甲の製造業者が数社ある。各社の甲の販売金額が日本に おける甲全体の販売金額に占める割合(シェア)は,A社が55パーセント程度,B社とC社はい ずれもおよそ10パーセントから15パーセント程度である。A社,B社及びC社以外の甲の製造 業者のシェアはいずれも10パーセント未満である。日本において,甲の輸入品はほとんど流通し ていない。過去において各社の順位やシェアに大きな変動はない。 甲の製造業者は,自社の製造した甲を小売業者に販売し,小売業者は,甲を一般消費者に対して 販売している。小売業者は,小売業者の店舗に来店する一般消費者に対して販売する方法をとって いる。A社は,製造した甲を小売業者に対して出荷するに際して,甲に書面(以下「納品書」とい う。)を添付し,小売業者に納入する製品の名称(甲)やその数量,出荷する製品(甲)の小売業 者に対する販売価格,支払期限等を通知している。 一度A社製の甲を購入して使用したほとんどの一般消費者は,A社製の甲を店頭で指定し,継続 的に購入することが通常である。このようにA社製の甲は一般消費者に高い評価を得ており,甲を 販売する小売業者にとって,A社製の甲を取り扱うことは,その営業上不可欠となっている。 〔設 問〕下記(1)及び(2)の設問に答えなさい。 (1) 上記の【前提】に加え,以下の事情がある場合に,A社の行為について,独占禁止法上の問題 点を分析して検討しなさい。 A社は,自社製の甲を取り扱う小売業者を全国的な範囲で相当数確保し,維持するために,A社 の取引先である小売業者の全てがある程度の利益を確保できることが,必須であると考えていた。 ところが,ある時期から,小売業者のうち,特に規模の大きい小売業者(以下「大規模小売業者」 という。)が,甲の1個当たりの利益を少なくして一般消費者に対する販売価格(以下「小売価格」 という。)を低くする一方,数量を多く販売することによってある程度の利益を確保する戦略によ り甲を販売し,A社製の甲もその対象とするとともに,そのように低めに設定した甲の小売価格に ついて,一般消費者に対して大々的に広告を行って一般消費者に訴求することが常態化した。 A社は,小売業者による甲の小売価格の自由な広告は,規模の小さい小売業者をも全国的な範囲 で相当数確保し,維持することが自社にとって利益になるというA社の考えに反する結果をもたら すと考え,自社の取引先小売業者が広告において一般消費者に対しA社製の甲の小売価格の表示を 行った場合には,当該小売業者に対してそのような表示を行わないことを求め,これに従わない場 合には,当該小売業者に対して甲の出荷を停止することを決定した。 かかる決定に基づき,A社は,納品書にあらかじめ「広告に小売価格を記載しないでください。」 との文言を記載し,甲の出荷の度ごとに小売業者に通知した。また,A社の営業担当者は,取引先 である大規模小売業者を度々訪問し,一般消費者に対する広告においてA社製の甲の小売価格の表 示を行わないように要請するとともに,表示を継続する場合には出荷を停止する旨を説明した。 このようなA社の納品書の記載と営業担当者の説明により,A社の取引先である大規模小売業者 は,おおむね,A社製の甲の小売価格を広告において表示しなくなった。 (2) 上記の【前提】に加え,以下の事情がある場合((1)記載の事情はない)に,A社の行為につい て,独占禁止法上の問題点を分析して検討しなさい。 A社は,自社の甲の機能を改良し,現行の甲と比較して健康維持機能を20パーセント以上向上 させ,他社製の甲に比べて高い顧客満足度を見込む甲の新製品(以下,A社製の甲の新製品を「新 製品甲」という。)を開発した。A社は,新製品甲の販売開始に当たり,小売業者に対し,一般消 費者に新製品甲の機能を説明することを求めることとし,具体的には小売業者の販売員がA社の定 める研修を受講すること,そのように研修を受講した小売業者の販売員が一般消費者に対して新製 品甲の機能や取扱方法の説明を行うこと,小売業者の販売員が新製品甲の機能の説明を行うために 必要な機材を購入することを,全ての取引先小売業者に義務付け,これに応じない小売業者とは新 製品甲の取引を行わないことを決定した(以下「本決定」という。)。 これ以前にA社が,取引先小売業者に対し,A社製の甲の販売に際して甲の健康維持機能や取扱 方法の説明を消費者に行うことを求めたり,義務付けたりすることはなかった。 A社が本決定を行うに至ったのは,第一に,近時B社及びC社も,それぞれ自社の従来の甲の機 能を改良した新製品を発売し,一般消費者を引き付け始めており,このまま放置しておくと,近い 将来,現在のA社のシェアを維持できなくなるおそれが生じていること,第二に,新製品甲の健康 維持機能の向上を強く打ち出し,販売に当たって一般消費者に対して丁寧に説明することが,A社 製の甲の一般消費者に対する訴求力を向上させ,A社製の甲を指定して購入する一般消費者を一層 増加させると考えたことによる。 もっともA社の取引先小売業者の中には,本決定に従うと,販売コストが上昇し,それを小売価 格に転嫁すると新製品甲の小売価格を引き上げざるを得ないことに懸念を有する者もいた。 このようなA社の取引先小売業者の懸念にもかかわらず,A社が本決定を小売業者に対して実施 したところ,これに従ったA社の取引先小売業者の新製品甲の販売コストが上昇し,本決定がなかっ た場合に想定していた小売価格よりも高い小売価格で新製品甲を販売する小売業者も少なくなかっ た。 論文式試験問題集[知的財産法]