平成27年 司法試験 論文式試験 経済法 第2問
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〔第2問〕(配点:50) A社は,電子部品甲(以下「甲」という。)のメーカーである。甲は,電子機器丙(完成品。以 下「丙」という。)に搭載され,他に用途はない。甲のメーカーは,甲を製造して丙のメーカーに 販売している。丙のメーカーは,甲を搭載した丙を製造して世界各国の販売代理店に販売し,販売 代理店がそれを消費者に販売している。 世界中の多くの国の消費者が丙を使用している。しかし,丙の規格が国によって異なるため,消 費者は一般に丙を自国で購入し,他国で丙を購入することはほとんどない。甲には,このような国 ごとの規格の違いはない。 甲のメーカーは,過去には世界に10社以上存在していたが,買収や撤退などにより,平成21 年末までにA社からH社までの8社に集約された。このうちA社,B社,C社は日本の企業,D社, F社は日本以外のアジアの企業,E社はヨーロッパの企業,G社,H社は米国の企業であった。そ の後,平成23年中にA社はB社を買収し,C社はD社を買収した。平成25年中にはE社がF社 を買収した。その結果,平成25年末時点で,世界における甲のメーカーは5社となった。 これら甲のメーカーの平成22年,平成24年及び平成26年の各暦年における市場シェアの推 移は,以下のとおりであった。 平成22年 平成24年 平成26年 A社(日本) 20% 25% 25% B社(日本) 10% - - C社(日本) 15% 20% 15% D社(アジア) 5% - - E社(ヨーロッパ) 5% 15% 15% F社(アジア) 15% 5% - G社(米国) 10% 25% 30% H社(米国) 20% 10% 15% 合計 100% 100% 100% 平成24年及び平成26年のA社の数値はB社を買収した後のもの,平成24年及び平成26年 のC社の数値はD社を買収した後のもの,平成26年のE社の数値はF社を買収した後のものであ る。日本における市場シェアの分布を見ると,日本の甲のメーカーの市場シェアが多少高くなる傾 向はあるものの,上記のような世界における市場シェアの分布と有意な差異は見いだせない。 丙のメーカーは,平成26年末時点で,世界に15社存在し,日本,米国,アジア,ヨーロッパ に偏りなく分布している。丙のメーカーの数や所在地は,平成22年以降ほぼ変動がない。 消費者は,丙の機能の高速化や大容量化を強く求めており,それを実現するためには,甲の機能 が高速化,大容量化することが重要である。甲のメーカーは,それぞれ,甲の機能の高速化や大容 量化のために既存の技術を発展させることのみならず,革新的な新技術の開発も行っている。それ ゆえ,甲に関する技術が進歩するスピードは速く,毎年1回以上,前のモデルより高速化,大容量 化した新しいモデルの甲が発売されている。同時に,丙のメーカーに対しては,各国の丙の販売代 理店及び消費者から厳しい価格引下げ要求があり,それはそのまま丙のメーカーからの甲のメー カーに対する強い価格引下げ要求に反映されている。 丙のメーカーが,特に自国の甲のメーカーのみから甲を購入する傾向はない。むしろ,丙のメー カーは,特定の甲のメーカーにおける製造設備の事故等により甲の十分な供給を受けられなくなる ことによって自社の丙の製造が中断する危険を回避するとともに,甲のメーカー間で価格競争を行 わせることを目的として,国を問わず複数の甲のメーカーから甲を購入するのが通常である。しか も,丙のメーカーは,取引する甲のメーカーを固定化せず,甲のメーカーの技術能力や取引条件に 応じて取引する甲のメーカーを常時変更し,あるいは複数のメーカーからの甲の購入割合を常時変 更している。 甲の販売価格に占める輸送費用の割合は数パーセント程度である。甲に関税を課す国は現時点で は存在しない。また,甲の販売価格が,国によって大きく異なるという傾向はない。 世界における甲の需要は緩やかな増加基調にある。しかし,近年,甲とは科学的原理も技術も全 く異なるが甲と同じ機能を有する新たな部品乙(国ごとの規格の違いはない。以下「乙」という。) が流通し始め,一部の丙のメーカーには,甲に代えて乙を自社の丙に搭載する動きがある。平成 26年末時点で,乙の機能は,甲と比較すると20パーセント程度高速である一方,その価格は, 甲より50パーセント程度高額である。これらの機能,価格の差異は技術の進歩を勘案しても当面 大きく変わらないと予想され,数年のうちに丙のメーカー間で乙が広く普及する見込みはない。ま た,甲のメーカーは,既存の甲の製造設備を利用して乙を製造することはできない。 平成27年5月現在,A社は,甲に関する自社の技術と親和性,補完性が高い新技術を開発して いるH社を買収し,甲の開発時間を大幅に短縮することを目的として,H社の株式の全部を取得す ることを計画している。 〔設 問〕 上記の状況において,A社が計画するH社の株式取得に関する独占禁止法上の問題点を分析し て検討しなさい。 論文式試験問題集[知的財産法]