平成27年 司法試験 論文式試験 刑事系科目 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
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〔第1問〕(配点:100) 以下の事例に基づき,甲,乙及び丙の罪責について,具体的な事実を摘示しつつ論じなさい(特 別法違反の点を除く。)。 1 甲(53歳,男性,身長170センチメートル,体重75キログラム)は,医薬品の研究開発・ 製造・販売等を目的とするA株式会社(以下「A社」という。)の社員である。 A社には,新薬開発部,財務部を始めとする部があり,各部においてその業務上の情報等を管 理している。各部は,A社の本社ビルにおいて,互いに他の部から独立した部屋で業務を行って いる。 2 某年12月1日,甲がA社の新薬開発部の部長になって2年が経過した。甲は,部長として, 新薬開発部が使用する部屋に設置された部長席において執務し,同部の業務全般を統括し,A社 の新薬開発チームが作成した新薬の製造方法が記載された書類(以下「新薬の書類」という。) を管理するなどの業務に従事していた。新薬の書類は,部長席の後方にある,暗証番号によって 開閉する金庫に入れて保管されていた。 3 甲は,同日,甲の大学時代の後輩であり,A社とライバル関係にある製薬会社の営業部長乙(50 歳,男性)から食事に誘われ,その席で,乙に,「これはまだ秘密の話だが,最近,A社は新薬 の開発に成功した。私は,新薬開発部の部長だから,新薬の書類を自分で保管しているのだよ。」 と言った。すると,乙は,甲に,「是非,その書類を持ち出して私に下さい。私は,その書類を 我が社の商品開発に活用したい。成功すれば,私は将来,我が社の経営陣に加わることができる。 その書類と交換に,私のポケットマネーから300万円を甲先輩に払いますし,甲先輩を海外の 支社長として我が社に迎え入れます。」と言った。 甲は,部長職に就いたものの,A社における自己の人事評価は今一つで,そのうち早期退職を 促されるかもしれないと感じていたため,できることならば300万円を手に入れるとともに乙 の勤務する会社に転職もしたいと思った。そこで,甲は,乙に,「分かった。具体的な日にちは 言えないが,新薬の書類を年内に渡そう。また連絡する。」と言った。 4 甲は,その後,同月3日付けで財務部経理課に所属が変わり,同日,新薬開発部の後任の部長 に引継ぎを行って部長席の後方にある金庫の暗証番号を伝えた。 甲は,もし自己の所属が変わったことを乙に告げれば,乙は同月1日の話をなかったことにす ると言うかもしれない,そうなれば300万円が手に入らず転職もできないと思い,自己の所属 が変わったことを乙に告げず,毎月15日午前中にA社の本社ビルにある会議室で開催される新 薬開発部の部内会議のため同部の部屋に誰もいなくなった隙に新薬の書類を手に入れ,これを乙 に渡すこととした。 5 甲は,同月15日,出勤して有給休暇取得の手続を済ませ,同日午前10時30分,新薬開発 部の部内会議が始まって同部の部屋に誰もいなくなったことを確認した後,A3サイズの書類が 入る大きさで,持ち手が付いた甲所有のかばん(時価約2万円相当。以下「甲のかばん」という。) を持って同部の部屋に入った。そして,甲は,部長席の後方にある金庫に暗証番号を入力して金 庫を開け,新薬の書類(A3サイズのもの)10枚を取り出して甲のかばんに入れ,これを持っ て新薬開発部の部屋を出て,そのままA社の本社ビルを出た。 甲は,甲のかばんを持ってA社の本社ビルの最寄り駅であるB駅に向かいながら,乙に,電話 で,「実は,先日,私は新薬開発部から財務部に所属が変わったのだが,今日,新薬の書類を持 ち出すことに成功した。これから会って渡したい。」と言ったところ,乙は,甲に,「所属が変わっ たことは知りませんでした。遠くて申し訳ありませんが,私の自宅で会いましょう。そこで300 万円と交換しましょう。」と言った。 6 甲が向かっているB駅は,通勤・通学客を中心に多数の乗客が利用する駅で,駅前のロータリー から改札口に向かって右に自動券売機があり,左に待合室がある。待合室は四方がガラス張りだ が,自動券売機に向かって立つと待合室は見えない。待合室は,B駅の始発時刻から終電時刻ま での間は開放されて誰でも利用でき,出入口が1か所ある。自動券売機と待合室の出入口とは直 線距離で20メートル離れている。 7 甲は,B駅に着き,待合室の出入口を入ってすぐ近くにあるベンチに座り,しばらく休んだ。 そして,甲は,同日午前11時15分,自動券売機で切符を買うため,甲のかばんから財布を取 り出して手に持ち,新薬の書類のみが入った甲のかばんを同ベンチに置いたまま待合室を出て, 自動券売機に向かった。 待合室の奥にあるベンチに座って甲の様子を見ていた丙(70歳,男性)は,ホームレスの生 活をしていたが,真冬の生活は辛かったので,甲のかばんを持って交番へ行き,他人のかばんを 勝手に持ってきた旨警察官に申し出れば,逮捕されて留置施設で寒さをしのぐことができるだろ うと考え,同日午前11時16分,ベンチに置かれた甲のかばんを抱え,待合室を出た。この時, 甲は,自動券売機に向かって立ち,切符を買おうとしていた。丙は,甲のかばんを持って直ちに ロータリーの先にある交番(待合室出入口から50メートルの距離)に行き,警察官に,「駅の 待合室からかばんを盗んできました。」と言って,甲のかばんを渡した。 甲がB駅の待合室に入ってから丙が甲のかばんを持って待合室を出るまでの間,待合室を利用 した者は,甲と丙のみであった。 8 甲は,同日午前11時17分,切符の購入を済ませて待合室に戻る途中で,甲のかばんと同じ ブランド,色,大きさのかばんを持って改札口を通過するC(35歳,男性,身長175センチ メートル,体重65キログラム)を見たことから,甲のかばんのことが心配になって待合室のベ ンチを見たところ,甲のかばんが無くなっていたので,Cが甲のかばんを盗んだものと思い込ん だ。 甲は,Cからかばんを取り返そうと考え,即座に,「待て,待て。」と言ってCを追い掛けた。 甲は,同日午前11時18分,改札口を通過してホームに向かう通路でCに追い付き,Cに, 「私のかばんを盗んだな。返してくれ。」と言った。しかし,Cは,自己の所有するかばんを持っ ていたので,甲を無視してホームに向かおうとした。甲は,Cに,「待て。」と言ったが,Cが全 く取り合わなかったので,「盗んだかばんを返せと言っているだろう。」と言ってCが持っていた C所有のかばんの持ち手を手でつかんで引っ張ってそのかばんを取り上げ,これを持ってホーム に行き,出発間際の電車に飛び乗った。 Cは,甲からかばんを引っ張られた弾みで通路に手を付き,手の平を擦りむいて,加療1週間 を要する傷害を負った。 論文式試験問題集[刑事系科目第2問] [刑事系科目]