平成26年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 甲国と乙国は隣国であるが政治的に対立していた。乙国は産油国で丙国等に原油を輸出してきた が,乙国の港に出入りする船舶は乙国領海と甲国排他的経済水域の一部との間にあるA海峡の甲国 領海内に位置する航路を通過しなければならなかった。後に乙国と丙国は安全保障条約を締結し, 乙国が丙国の軍隊に乙国施設・区域の使用を許可し,丙国が乙国に武器を供与することを定めると ともに,第5条に「各締約国は,乙国領域における,いずれか一方に対する武力攻撃が自国の平和 及び安全を危うくするものと認め共通の危険に対処するように行動する」という規定を置いた。こ れに反発した甲国政府は,「いかなる外国の軍艦及び乙国向け武器積載船によるA海峡の甲国領海 内航路の通航も甲国の平和と安全を脅かすものであり,甲国は,許可なく同航路を通航するこれら の船舶に対して必要な措置を採る」との声明を発表した。 その後,乙国では専制的なX大統領の退陣を求める全国的な民主化運動が起こったが,X大統領 が政府軍を使って容赦ない弾圧をしたために国民に多数の犠牲者が出た。甲国に避難した乙国民主 化運動の各派指導者たちは甲国政府から会議場等の便宜提供や対立意見の調整などのあっせんを受 けて,Y連盟という反政府政治組織とその軍事部門であるZ軍の創設に合意した。乙国に拠点を戻 したY連盟とZ軍は,X大統領政府に対する武力闘争を開始し,乙国は内戦状態になった。X大統 領政府と対立する甲国政府は,Y連盟に対して財政支援,訓練及び武器供与を行った。Z軍の作戦 行動はY連盟の政治的決定に基づきZ軍幹部が指揮しているが,甲国政府から供与される資金,訓 練,武器及び情報がなければ,X大統領の政府軍と効果的にゲリラ戦を続けることはできなかった。 2013年秋,Y連盟指導部の決定に基づきZ軍幹部は乙国国営原油生産施設(以下「原油生産施 設」という。)の破壊作戦を立案・指揮した。同作戦は,甲国で訓練を受けたZ軍戦闘員が甲国か ら供与された武器・装備を動員して電撃的に実行し,Z軍は原油生産施設の基幹部分を破壊した後 撤収した。X大統領は,Y連盟及びZ軍による原油生産施設の破壊行為を甲国自身に帰属する国際 違法行為であると非難した。 Z軍が原油生産施設を破壊・撤収した1か月後,丙国の空軍部隊は,甲国の武器貯蔵庫,軍事基 地,港湾の集荷場など数か所を爆撃し,これらを破壊した。丙国政府は国際連合安全保障理事会(以 下「国連安保理」という。)議長に宛てた書簡で,「第1に,原油生産施設の破壊行為の後も,乙国 で軍事行動を続けているY連盟及びZ軍に対して,甲国政府は,財政支援,訓練及び武器供与とい う形態の援助を継続していた。第2に,甲国からのこれらの援助を利用して,Y連盟及びZ軍が乙 国化学工場施設に対する新たな軍事作戦を決定し,そのためにZ軍部隊が行動を開始したという情 報を乙国から入手した。Z軍による同施設の武力攻撃は,甲国による武力攻撃とみなし得る。した がって丙国は,安全保障条約第5条の義務に基づいて独自の決定により甲国に対する軍事行動を実 施した。この行動は,国際連合憲章第51条の集団的自衛権の行使に該当する」と述べた。 乙国内の内戦又は甲国,乙国,丙国間に生じた一連の事態について,国連安保理は,有効な行動 がとれていないものとする。また,甲国,乙国及び丙国は,全て国際連合加盟国であり,海洋法に 関する国際連合条約(以下「国連海洋法条約」という。)の締約国である。 以上を踏まえて,下記の設問に答えなさい。 問1.A海峡に国連海洋法条約第45条の規定が適用されるとした場合,「いかなる外国の軍艦及び 乙国向け武器積載船によるA海峡の甲国領海内航路の通航も甲国の平和と安全を脅かすものであ り,甲国は,許可なく同航路を通航するこれらの船舶に対して必要な措置を採る」という甲国政 府の声明は国際法上どのように評価できるかを論じなさい。 問2.Z軍による原油生産施設の破壊行為は,甲国に帰属する国際違法行為だといえるか検討しなさ い。 問3.丙国空軍による甲国の爆撃に対して,甲国は,丙国政府が国連安保理議長に宛てた書簡におい て述べた主張に対して,どのような反論を行うことができるかを論じなさい。