平成26年 司法試験 論文式試験 知的財産法 第1問
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〔第1問〕(配点:50) 製薬会社甲は,認知症に効く新薬の開発を進め,数々の実験を重ねた結果,製法Aによって,認 知症治療に優れた効能を発揮する化合物αを製造することに成功した。そこで,甲は,特許請求の 範囲を「化合物αを有効成分とする認知症治療剤」とする特許出願をした。ところが,その出願前 に既に頒布されていた創薬に関する公知文献に化合物αの構造が記載されていることを理由とし て,特許庁から拒絶理由通知が発せられたため,甲は,特許請求の範囲を「製法Aによって生産さ れる化合物αを有効成分とする認知症治療剤」(以下「本件発明」という。)に補正したところ,特 許査定がされ,特許権の設定登録を受けた(以下,その特許権を「本件特許権」という。)。その後, 甲は,医薬品を製造・販売するために必要な薬事法所定の承認を得た上で,本件発明の実施品とし て「製法Aによって生産される化合物αを有効成分とする認知症治療カプセル」(以下「Aカプセ ル」という。)を製造・販売している。 以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えよ。なお,薬事法固有の問題を考慮する必要は ない。 〔設 問〕 1.製薬会社乙は,製法Aによって生産される化合物αを有効成分とする医薬品が所定の効能を 有するか疑問を抱き,これを確かめる目的で,甲に無断で,本件発明の技術的範囲に属する医 薬品を製造して実験をした結果,所定の効能を有することを確認した(以下「乙行為1」とい う。)。 そこで,乙は,化合物αを有効成分としつつも,薬剤の有効成分が体内で徐々に放出される ようにして,より少ない服用回数で薬効を生ずるようにした新たな医薬品を開発するために, 甲に無断で,本件発明の技術的範囲に属する医薬品を製造し実験を重ねた(以下「乙行為2」 という。)。 乙は,上記実験によっても所望の医薬品の開発に至らなかったが,実験中,偶然にも化合物 αを製法Bによって生産することに成功した。そこで,乙は,「製法Bによって生産される化 合物αを有効成分とする認知症治療カプセル」(これを「Bカプセル」という。)を開発し,薬 事法所定の承認を得た上で,甲に無断で,これを製造・販売している(以下「乙行為3」とい う。)。 甲は,乙に対し,上記乙行為1ないし3は,いずれも本件特許権を侵害するものであるとし て,乙行為3の差止め及び乙行為1ないし3に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。 同訴訟において,甲及び乙は,それぞれどのような主張をすることができるか。 2.製薬会社丙は,本件特許権の存続期間が満了した後にAカプセルと同一の製法により同一の 有効成分を有する後発医薬品(以下「Cカプセル」という。)を製造・販売する計画を立て, Cカプセルにつき薬事法所定の承認申請を行う際に必要な資料を揃えるために,甲に無断で, Cカプセルを実際に製造して承認申請に必要な試験を行い,その結果,Cカプセルにつき薬事 法所定の承認を得た(以下「丙行為1」という。)。 そこで,丙は,Cカプセルの将来の販売に備え,化合物αを有効成分とする医薬品が今なお 市場においてどの程度の需要があるかを調査するために,Cカプセルを少量製造してサンプル として提供し,市場調査を実施した(以下「丙行為2」という。)。 丙は,上記調査で満足のいく結果を得たため,本件特許権の存続期間満了前に,Cカプセル を将来の販売に備えて大量に製造している(以下「丙行為3」という。)。 甲は,丙に対し,上記丙行為1ないし3は,いずれも本件特許権を侵害するものであるとし て,丙行為3の差止め及び丙行為1ないし3に基づく損害賠償を求める訴訟を提起した。 同訴訟において,甲及び丙は,それぞれどのような主張をすることができるか。 3.製薬会社丁は,Aカプセルと同一の効能を有する錠剤の医薬品(以下「D錠」という。)を 開発し,薬事法所定の承認を得た上で,Aカプセルを市場において大量に購入した上,甲に無 断で,Aカプセルから化合物αを含む薬剤を取り出し,化合物αに化学反応を生じさせないよ うに,上記薬剤に精製水を加えて溶かし,化合物αを再精製し,これを固めて錠剤とし,この 錠剤に特殊な皮膜を施すことによって,D錠を製造し,これを販売している。 甲は,丁に対し,D錠の製造・販売行為は,本件特許権を侵害するものであるとして,D錠 の製造・販売の差止めを求める訴訟を提起した。 同訴訟において,甲及び丁は,それぞれどのような主張をすることができるか。