平成25年 司法試験 論文式試験 国際関係法(公法系) 第1問
問題文と公式資料を一つにまとめ、出題の趣旨と採点実感の要点をすぐ確認できる学習ページです。
〔第1問〕(配点:50) X国では,甲元首の率いる軍事政権の下で専制的統治が続いてきたが,近年急速に民主的政治制 度を求める国民運動が高揚した。窮地に立たされた甲元首の軍事政権は,2012年9月に全土に 非常事態宣言を発令して反政府諸政党の解散と一切の集会・デモを禁止する措置を採るとともに, 同年11月には,反政府諸政党の指導者多数を反逆罪の被疑事実で逮捕し訴追することを決定した。 逮捕された多数の被拘禁者に対して,拷問が行われた。 X国の隣国であるY国の政府は,X国からの避難民が急激に増加したために,X国政府の人権 侵害に強い懸念を示すようになった。2012年12月1日,Y国政府は,X国政府の一連の行為 は拷問を禁止する慣習国際法に対する重大な違反行為に当たるとして,被拘禁者に対する拷問行為 を直ちに中止するよう求める外交的声明を発表するとともに,X国民の人権侵害に使用されるおそ れのある産品のX国向け輸出を禁止する措置を採ることを決定した。Y国は「拷問及び他の残虐な, 非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約」の当事国であるが,X国は非当事国 である。 さらに2012年12月25日,Y国の裁判所は,同国の拷問等禁止法が拷問及び拷問の共謀の 罪はY国外でこの罪を犯した者にも適用され,かつ,この罪には同国の刑事裁判権が及ぶと定めて いることを根拠として,甲元首に対し,拷問の共謀を被疑事実とする逮捕状を発付し,国際刑事警 察機構を通じて国際手配した。この逮捕状の発付はY国領域内で甲元首に対する逮捕を執行可能に するものであり,国際手配は甲元首が入国する第三国で当該国による甲元首の逮捕とその後のY国 への引渡しの法的根拠となり得るものであった。翌12月26日,X国政府は,甲元首に対する逮 捕状の発付と国際手配に対する対抗措置として,X国駐在のY国大使及び外交官の身柄を拘束する とともに,甲元首に対する逮捕状の発付について事情聴取するため彼らをX国検察庁建物内に無期 限に抑留すると発表した。 2013年2月25日,X国政府は,同国内で海外貿易事業を営んでいた乙社の在X国支店に対 して営業活動停止を命じ,国内法上の根拠なくその資産の全てを没収する措置を採った。乙社は, Z国の法律に基づいて設立され,かつ,Z国に本拠地を置く株式会社であるが,その株式の55% はY国の国民丙が保有していた。X国政府による乙社資産の没収措置は,Y国の国民丙が乙社の多 数株主であることを実質的理由とするもので,これに対してはいかなる国内的救済手段も利用でき なかった。ただし乙社は在X国支店の資産没収後も,Z国において株式会社としての法人格を維持 し,一定の事業を継続している。 以上の事実関係を前提として,以下の設問に答えなさい。 〔設 問〕 1.2012年12月1日のY国政府の外交的声明及び一定のX国向け産品の禁輸措置について, X国政府が「Y国のこれらの行為は,X国の国内管轄事項に対する重大な介入行為であり,国 際法上違法な干渉に当たる」として強く非難したとする。Y国はX国の非難に対して一般国際 法に基づいてどのように反論することが可能かを論じなさい。なおX国とY国との間には二国 間又は多数国間条約に基づく輸出入に関する特別の権利義務は存在していない。 2.(a) 2012年12月25日,Y国の裁判所がX国の甲元首に対して拷問の共謀を被疑事実 とする逮捕状を発付し,国際刑事警察機構を通じて諸外国に国際手配した行為は,仮にY 国に普遍的管轄権の行使が認められるとして,免除の観点から一般国際法上どのように評 価できるかを論じなさい。 (b) 2012年12月26日,X国政府がY国大使及び外交官の身柄を拘束及び抑留して事 情聴取する行為は,甲元首に対する逮捕状の発付と国際手配に対する対抗措置として正当 化できるか否かについて論じなさい。なおX国とY国は外交関係に関するウィーン条約の 当事国である。 3.2013年2月25日のX国による乙社の在X国支店に対する没収措置によってZ国で設立 された乙社に損害が生じた事件において,乙社の株主丙の国籍国であるY国は,株主丙のため にX国に対して外交的保護権を行使できるか否かについて論じなさい。